サガン鳥栖 VS 湘南ベルマーレ (ベアスタ)
2008-24 サガン鳥栖 VS 湘南ベルマーレ
消化試合が湘南よりも1試合多い鳥栖にとっては、勝ち点差4とは言っても事実上3位を受け渡すか、それとも死守するかと言っても過言ではない重要な対戦。
両チームともに死闘をつくした戦いは、僅差であるというスコア以上に試合運びと作戦面、技術面、状況判断能力、すべてにおいて湘南に軍配があがりました。守備に関しては早い時間に先制点を奪った湘南の攻撃の威力が弱まっていたのでともかくとして、とかく攻撃に関しては見た目で感じた惜しい試合という感触以上に選手たちは力の差を感じたのではないでしょうか。
鳥栖はカウンターで失点を喫していましたが、試合開始当初からの鳥栖のコーナーキックの場面に失点の布石はありました。鳥栖のコーナーで湘南の選手が3人も攻撃用の選手として残しているにも関わらず、鳥栖も同じく3人の選手しか自陣に守備用の選手を置いていませんでした。これは、相手の選手よりも1人多く自陣に残すという定石からはずれたプレイであり、相手のカウンターに対する防御の意識の欠如としか言いようがありません。実際、得点をとりにいくためにリスクをかけなければいけない状況でもなく、相手の動きに対して適応する能力が欠けていたということでしょう。結果は事なきを得たのですが、このようなひとつひとつの場面に対する集中力が最終的には試合の結果を生んでいます。人数の残し方が、意図のあるプレイであったとすれば、前半のこの時間帯でリスクをかけた攻撃を行うという事自体が状況判断ミスだと思います。
点をとられたカウンター時にも守備に対する統一性の希薄さからか、カウンター攻撃に備えてディフェンスの人数は戻ってくるものの、人に対するマークがあまりにも分散しすぎて湘南の攻撃に屈してしまいました。ただ、この失点時の湘南のプレイに関しては相手を褒めざるをえないでしょう。右サイドから左サイドへの大きな展開のパス、そして左足でダイレクトでクロスを上げる技術と、その早いクロスをボレーで確実に決める技術。まるでテニスを見ているかのように首を右に左に振りながら見ていたらゴールが決まってしまったという早い展開でした。
対して、鳥栖の攻撃は、サイドでボールを受けた選手が1VS1で抜こうとして、完全に抜いてからクロスをあげようという動きや、ゴール前でも相手を完全に抜いてからシュートを打とう、パスでディフェンスを崩してからシュートを打とうという、つまり、いい形で持ってからボールを蹴ろうとしようとしすぎたのではないかと思います。だからこそ、せっかくクロスをあげても守備側が中をそろえる時間がありますのでセンターバックにはじき返されてしまうし、抜いてシュートを打っても、次のディフェンスの選手がシュートブロックに入ってきておりました。
では、多少無理な体勢からでも素早く正確なボールを蹴る事ができるかと言われれば、いまの鳥栖の選手ではミスキックの連続になってしまう。ゴールの枠にさえ飛ばないシュートや、直接ラインをでてしまうクロスが如実に物語っておりました。要するに、まだまだ技術として未成熟な選手が多いという事ですね。
構えている相手を崩さなければならない状態になってしまうのは、当たり前ですが相手に守備体制を整える時間を与えてしまっていることがひとつの原因でもあります。相手に守備を整える時間を与えないためには、これも当たり前ですが相手が守備を整える前にしかける事が必要です。そのひとつの方法としてのダイレクトプレーを利用するがあります。そういう観点から言うと相手の守備が整う前のダイレクトプレイは少なかったように思えます。相手のゴール裏で整った守備を崩すためにダイレクトでしかけるプレイも見えましたが、そうなってくるとそろっている相手が襲いかかってくるためにプレッシャーが半端ではなく、結果、パスミス、トラップミスにつながって決定的チャンスを作るには至りません。
また、中盤でボールをカットしてから前を向いてボールを持っても、フォローがない場合はドリブルで前進しようとする動きが見えないことが多かったですね。鳥栖のハーフ陣の清水、山城、という面々は往々にしてこのような状態に落ち入りやすいです。相手はリトリートするしかない状態ですので停滞するのはもったいないかなという場面もありました。ゴール前で相手が人数をそろえている状態でのしかけと、中盤でボールを持ち出して一人交わしたら後は独走ができるという状態でのしかけというしかけの位置の違いはあるかもしれませんが、チャンスを作るという点では低い位置でのしかけもたまにはあった方がいいのかなとは思いました。
ここで「たまには」と書いたのは、無理してしかけることによってボールを失うことの怖さがあるからです。その辺りは状況として押し込んでいるのか、押し込まれているのか、もしくは対面している相手との力関係ですね、その辺りでの判断力というのを選手に求めなければなりません。局面での1VS1で助けてくれるのは戦術でも何でもなく、あくまで個人の力なのですからね。
失う怖さという観点で言うと、バックパスで溜息をつく観客が多いのですが、バックパスはボールを奪われないための一つのプレイなのです。筆者としては、確率の低い飯尾や内間のロングフィードを見るよりは、確実に室にバックパスで返してボールを失わず、室のロングフィードで一気に前線へ放り込んだ方がまだ可能性はあるような気がします。観客の皆様にはバックパスは消極的なパスと意図のあるパスの2種類がある事をご理解していただけたらサッカーが更に面白くなるかもしれません。たとえバックパスでもボールを保持している間は相手にゴールを奪われる事はないのです。
さて、今回の試合は、相手の守備がマークに付く前、相手のラインが整う前にパスを供給するプレイができるか否かで今回の勝負は決着がついた感があります。サッカーは0.5秒の違いでゴールの有無が変わるスポーツです。0.5秒を作り出すために、90分間を走り続けなければなりません。しかしながら体力は無尽蔵にあるわけではないので、効率的な走りが要求されます。そのプレイが鳥栖はできずに湘南はできたということだと思います
では、効率的な走りというのはどういうことか。筆者は湘南のプレスと守り方にその一端を垣間見ました。
今回の試合は中盤の選手は比較的ボールを持たせてもらうことができました。それは、湘南としては中盤にプレスをかけても鳥栖のフォワードを交えた組織の攻撃でかわされてしまう可能性があり、ゆくゆくは藤田やキムをフリーにしてしまう恐れがあるので、それならば中盤を作られてもゴール前で防げばよいという考えがまずひとつあったのではないかと思います。
次に、ロングボールによって裏を取るということも鳥栖の攻撃のひとつなのですが、湘南はセンターバックがボールを持ったときには一転してするどくチェイスをかけて自由にボールを蹴らせませんでした。センターバックからのロングボールは藤田、キムと高さがあるだけに、正確なボールを蹴られてつながれると厄介でもあり、更に鳥栖のセンターバックは足元の技術がないためにつっかけることによって容易にミスを生み出してボールを得る事ができる。
この辺りの強弱のついたプレスと守り方は見事としか言いようがなく、事実、ある程度中盤やサイドにボールを持たれる事に対して目をつぶっても、ゴール前を固める事によって中盤からの玉だしやサイドからのクロスはジャーン、斉藤、田村という屈強のディフェンス陣+高さのあるボランチにことごとく跳ね返されていましたし、鳥栖のセンターバックにつっかけることによって何度となくキックミスを誘ってマイボールにしていました。
湘南は組織での戦いを挑むよりは、可能な限り個人能力での戦いに戦場をシフトさせることによって結果的に鳥栖の動きを封じたというのが全体的な感想です。
また、鳥栖は全体的に、岐阜戦もそうだったのですが、ボランチ、サイドバックがフォワードを追い越すシーンはほぼ皆無でした。特に、高地のドリブルは相手にとっても驚異なはずなのですが、いかんせん、ドリブルを開始する位置が低すぎました。とにもかくにも、この試合は攻撃に人をかけているようで肝心な肝のパターンを作り出すことが果たしてできていたかという点と、キックミスとも戦術の実行ミスともどちらともとれないプレイが多すぎていささか首をかしげたくなるシーンが多かった事は確かです。
特に、流れの中のクロスやコーナーキックなどのセットプレイはほとんどがニアでつぶされていたのですが、そのニアに入ってくる選手がいないためにチャンスがチャンスになっていませんでした。流れの中のクロスでニアサイドが多かったのは相手の守備陣が交わされてもくらいついてコースを切っていたためにそのようなボールになっていたのか、はたまた単なるキックミスなのかわかりませんが、それにしてもニアに来ると分かっていてもそこに飛び込んでこない藤田とキムのツートップには試合中に何を学習しているのかと問いたい気分でした。しかもこともあろうに、クロスが悪いと両手を広げて不満を示す始末。鳥栖の選手のクロスの精度が悪いのはいまに始まったことではありません。だからこそ、そのクロスにこの日ならではの癖があるのならば、その癖を読み切ってそのポジションへ飛び込んできてほしかったと思います。鳥栖の選手は前提としてクロスが下手なんです。だからこそ、鳥栖のフォワードは一人がニアサイド、一人がファーサイドなどと分散して待ち構えるような形で自ら打開していかなければならないのです。ニアやファーに分散してこぼれ球が中央に入って来たときにはそこに飛び込んでこないハーフの選手やボランチの選手の責任にしてもいいと思います。藤田とキムの動きはチームオーダーだったのかもしれませんが、もしそうだったら、得点がとれなかったのは首脳陣の責任ですね。
コーナーもニアばかり狙っていたのですが、あれが作戦だったのかよくわかりません。作戦だったとしても、止まっているボールや操っているボールですらまともに蹴る事ができない選手が、早いボールを正確にパスという形(もしくはいると思われるところにそらす)ことができて、さらにそのボールをゴールにシュートするという一連の流れが彼らにできるかというご甚だ疑問ですね。コーナーキックの狙いがよく分かりませんでした。
船谷は評価保留です。遠いところでも狙える繊細なパスの技術がありましたが、それだけにボールの回し方がJ1と違ってディフェンスラインの後方に蹴ってほしいと要求する放り込みJ2サッカーになじんでしまう可能性があります。また、試合序盤に比べて段々と運動量が落ちて存在感が後方になってきました。前方での仕事ができない堅実なボランチならば鳥栖には五万といます。彼の技術は高く買いますが1試合だけなので評価保留です。私はあのプレイっぷりだったら衛藤の方が鳥栖に向いている選手だと思いました。
最後に、内間の退場は彼が悪いのではありません。コーナーキックをミスキックで終えた高地と、こぼれ球の放り込みをミスキックしてしまった日高、彼らの二つのキックミスが呼び起したものです。結果的に攻撃態勢に入っているチーム全体のピンチを内間が救った事になりました。もちろん、内間も1枚カードをもらっているので対処の仕方は他にもあったかもしれませんが、あの状況では審判の心証も含めていたしかたないことだと感じます。
今年のJ2も例年のように広島以外のチームが上位にたったらたちまち勝てなくなるという循環で混戦模様になってきております。この混戦を勝ちきれる力が備わっているかどうかは今後の彼らの戦いっぷりが証明してくれるでしょう。
次節のダービー...負けたら終わりを予感させる上位、湘南との戦いでした。
